第3回-1 八角丸太小屋 移築日記「丸太小屋を解体する」

 永年住み暮らした丸太小屋を取り壊す、という決断は、心臓をしぼられるように苦しい。正直、そんな感情、我ながら意外だった。

 生来のやさぐれ人生、家というものに執着はない。家など、そのときどきに雨がしのげればいい、というくらいにしか思っていなかった。だから、既存の家の価値観や、建築概念から自由な丸太小屋を、自分で建てて住んだ。いつでも、また放浪の旅に出られる。

 現実に、僕はすでに雪深い新潟の山中に居を移している。丸太小屋は、新しい住人が使ってくれてもいい。そのまま朽ち果てて自然に還ってもいい。小屋も土地も自然からの借り物。すべての権利は自然に帰属する。それでいい。

 だが、そうはいかなかった。諸々の事情で、小屋を撤去しなければならなくなった。十数年ぶりに小屋と体面した。小屋は、薄情な主が去っても厳然とそこにあった。懺悔の気持ちがこみ上げてきた。丸太に刻まれたチェーンソーや斧、ノミの痕、壁を打ち抜いたクギ。そのひとつひとつが血と汗の結晶だった。

 三十数年前、僕はまだ若かった。山の麓から、丸太を肩に担いで運び上げた。丸太を抱いて崖から転げ落ちた。丸太を八角に組む難しさに悪戦苦闘した。指を切断した。山に寝泊まりしながら、完成までまつ1年かかった。

 執念の丸太小屋は、予想に反してほとんど傷んでいなかった。丸太はまだ木肌赤々と生きている。その命をもう1度、僕に委ねているように思えた。乱雑に壊すことをやめた。解体して、新天地に移してやろう。

 丸太小屋の移築計画が始まった。昔の、気のおけない仲間たちが駆けつけてきてくれた。青春が甦った。

これが八角丸太小屋だ!

解体作業始まる!

屋根の解体に手こずる!